父が見つめた、水面の小さな命
以前、父が近所の池で毎日のようにカイツブリの観察に出かけていました。カメラを手に、朝早くから水辺に腰を据える父の姿は、まるで子供のようでした。
カイツブリは、水草や枯れ枝を集めて水面に浮かぶ「浮巣」をつくる珍しい鳥です。波に揺られながらも沈まないその巣の仕組みに、父はすっかり魅了されていました。「よくこんな不安定な場所に卵を産むものだ」と、感心しきりでした。
しばらく観察を続けていると、親鳥が巣に戻ってきて、そっと卵の上に体を沈める瞬間に出会えたそうです。抱卵中の親鳥は、外敵が近づくと巣を離れる際に卵を水草で覆い隠す習性があるといいます。その慎重さと知恵に、父は「小さな体で懸命に命を守っているんだな」としみじみ語っていました。
浮巣は、水位の変化にも対応できる巧みなつくりです。雨で水かさが増しても、巣ごと浮き上がるため卵が水に浸かる心配が少ないのだとか。自然の中で命をつなぐ工夫の数々に、父はすっかり心を奪われていたようです。
帰宅後、父は興奮気味に「また様子を見に行きたい」と話していました。それを聞いた家族もまた、ヒナが無事に孵る日を楽しみにしていました。